講評(コメント)

○小学校就職希望者は少ないのに、小学校の実践をしっかりまとめているところがまずよい。さすが3免を出す人間発達学部で、視野が広い。この幼保小・三者のつながり(整合性と連続性)は、いま現場で求められている重要な視点だ。
 また、小学校の実践を踏まえて幼保の実践を構想するという「無茶ぶり」ではあったが、幼保の実践の力をつける課題としてしっかり取り組んでくれていた。

○綿から糸にしたりしてからトヨタ産業記念館に行ってもらったのは、この教材の連続性のセンスを持ってほしかったから。なにげない子どもの工夫が、社会の最先端につながっていく。子どもが遊ぶものをそういう人生の、産業発展史の大きなつながりの中でとらえてほしかったのである。

○幼稚園(もしくは小学校)実習から帰ってきての課題。小学校の実践をそのまま下におろすのではなく、いちど小さな子どもたちの姿を思い浮かべて構想しているものはすばらしい。実習の経験で「子どもが心に住んで」きたと感じる。小学校の発表会をそのまま幼保でやればいいのではない、劇もしっかり幼保にとりいれながらも、幼保ならではの劇として構想しようとしている。安易に演劇は子ども主体でないとしてやめるのではなく、高度な文化の一つとして、小学校のすぐれた劇づくりに学びつつ、幼保で、幼保でこそどうすればいいか、やろうとしているのはとてもよい。

○小学校から幼保をみると、〈学びの芽〉がとらえやすいかもしれない。教えたり、指示を出したりだけでなく、〈問い〉が出てくる環境づくり。考えるよう、一度〈問い返す〉。指導案で決めていたことをやらせるのでなく、子どもがそれをこえていく工夫をするよう〈聞いてみる〉。そして教材研究による高度な専門性は、子どもの何げない工夫に、〈驚く〉ことができるのだ。

○テキストだけでなく、関連するものを調べていることも習慣にしてほしい。インターネットだけであっても、調べるのはよい。今後もずっと手元に置いて時々に読んでいくような本と在学中に出会ってほしい。

○よくできていて、センスがいいな、という人で、けっこう一般企業就職希望者が多い。それはそれであなたの人生だからがんばってほしいと思うが、このセンスを持った人が幼保小にならないのは大変残念に思う。いまからでも実習の経験としっかり向き合って、自分の志と可能性をかんがえなおしてほしい。

○幼保の実践のイメージがないまま、課題に取り組んでもらったが、その後、これは、という実践が活字になった。以下紹介しておくのでぜひ読んでください。また、この実践と『希望をつむぐ教育』の関係も書いてみたのでぜひ読んでください。
 富岡美織「泥・水・砂あそびから子どもたちが得るもの」(『生活教育』2019年2月号pp.26-35)5MB
http://www.nisseiren.jp/kibouwo/tomioka.pdf
 あわせて、「生活教育eYe 希望の根っこ」『生活教育』2019年3月号p.60
http://www.nisseiren.jp/kibouwo/eye.pdf 
 なお、土山を園庭につくればいいというものではない。そこでの子どもの成長発達を細やかにとらえ、それを今の園の条件でどう実現するか考える方向(そして園の条件もよくしていく・社会的環境構成)。この園は実はまちなかにある。その気があればいくらでも保育は豊かになっていくのだ。子どもたちが時間的にも空間的にも「区切られて」、「狭いよう」「そんなにはやくできないよう」という声が聞こえないか。「気になる子」を様々な機関とつなげて個別対応していく前に、広いところで何をするのか、見てみたい。

○実践ごとの掲示板もあるので、また気づいたことはぜひ書き込んでください。
http://nisseiren.jp/kibouwo-cgi/yybbs.cgi?type=3

○長時間、忙しい仕事の業界は、若い人が来なくなる。早く帰れて、保育士も楽で楽しい保育。
 それには保育の質を変えなくてはならない。
 見栄えのよい行事や教室をたくさんやったり、「見本」を細かい「指示」で「きちんと」つくらせて見栄えよく展示したり、人手が足りず親や学生などボランティアをやたらと「動員」したり…。現場はますますそうなっている。実習でそういう現実にふれてがっかりした人も多いようだ。でも君たちには、そうではない保育を、厳しい中でもつくりだしていってほしい。
 そう期待したくなる、課題の出来でした。

○この授業で、『希望をつむぐ教育』は3回課題として使いました。1回は、実習に行く前、運動会をただ見たり手伝ったりするのでなく、〈子ども〉を見てきてほしい意味で、吉田さんのリレーのとりくみを読みました。2回目は、子ども理解のヒントを得てもらおうと、第1章「『困った』子は、『困ってる』子」を読んでもらいました。実習中、そういう子どもに出会いましたでしょうか。そして3回目がこの課題です。課題のとりくみで、実践記録集の読み方や活かし方も学んでくれていたらうれしく思います。

20190622up